薩摩半島の西岸に位置し、東シナ海に面して約45キロにわたって延びる日本三大砂丘の吹上浜を北上すると、海側の小高い場所に小正醸造の嘉之助蒸溜所が見えてきます。
明治16年創業の小正醸造が135年の焼酎造りの技術やノウハウを生かし、東シナ海を望むこの地でメローなジャパニーズウイスキーづくりをスタートさせるべく誕生した蒸溜所です。
2017年11月にオープン、2018年4月28日から一般公開されている蒸溜所の魅力と特徴を、写真とともにご紹介します。
◆勢いを増す日本のクラフトウイスキー
2018年5月末現在、北は北海道の厚岸から南は沖縄県島尻郡南大東まで、ジンやラムまで入れると日本全国38か所の蒸留所があります。
九州には4か所の蒸留所があり、宮崎県の日南市にある京屋酒造、日置市の嘉之助蒸溜所、南さつま市のマルス津貫、南九州市の佐多宗二商店と、鹿児島県はクラフト蒸留所大国になっています。
昨今のウイスキーブームで、日本各地でウイスキー蒸留所のオープンや、既存設備を使ってのウイスキー事業参入の話題などが持ち上がっており、また、ジャパニーズウイスキーが国際的に高く評価されるようになって久しく、世界中の愛好家から注目される存在となっています。
現在、酒類市場は小規模生産にこだわったものが注目されており、小正醸造は明治の創業以来、樽貯蔵で銘酒を生み出してきた焼酎造りの技術やノウハウを駆使して、ジャパニーズウイスキーづくりに参入しました。すでにボトルナンバーが付いたニューポットの限定販売も行っており、これからゆっくりと樽熟成されるウイスキーは、3年後に「KANOSUKE」ブランドのウイスキーとして、当面はヨーロッパでの販売を中心に予定しているそうです。
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◆老舗焼酎蔵の新しい挑戦
鹿児島県には現在100以上の蔵元がありますが、小正醸造の本格焼酎販売量は第6位を誇っています。その蔵元が、長年温めてきた新規事業がこのジャパニーズウイスキーづくりでした。
2代目小正嘉之助が家業を継ぐ2年前から、ウイスキー用と同じタイプのオーク樽で米焼酎を6年熟成させ、かの有名な長期貯蔵米焼酎「メローコヅル」を生み出し1957年に発売され、これが熟成焼酎の先駆けとなりました。日本全国に鹿児島の本格焼酎の魅力を発信すべく、2代目嘉之助を中心に蔵元一丸となって尽力し、現在は海外25ケ国にも焼酎を輸出しています。1976年から発売している「メローコヅルエクセレンス」は、2014年に香港で開催された「香港インターナショナルワイン&スピリッツコンペティション」で、焼酎部門の最高賞と金賞を受賞しています。
また、宗教上の戒律でアルコールが禁じられているイスラム教徒でも料理酒の代わりに楽しめる、ハラル対応のノンアルコール芋焼酎テイスト飲料「小鶴ZERO」は、中東地域では出荷量を伸ばし続けています。
2015年、本格的にウイスキー蒸留所設立計画がスタートすると、現専務の小正芳嗣氏は本格的にウイスキーづくりを学ぶため、本場スコットランドを訪問。幾多の蒸留所を訪ね、蒸留所運営や蒸留所の仕様など、現地の長い伝統やノウハウに触れながら、焼酎の蔵元ならではのジャパニーズウイスキーづくりの在り方を模索します。また、ストラスアーン蒸留所のウイスキースクールにも参加し、ウイスキーづくりの技術や知識を習得し帰鹿しています。
◆三宅製作所のポットスチル
嘉之助蒸溜所の蒸留室には、3種類の銅製ポットスチルが並んでいます。日本のウイスキーづくりを支えてきた三宅製作所が製造したもので、昔ながらのワームタブ方式を採用しています。ポットスチルは、完成まで全て分業制で、独特の複雑な曲面は、バーナーの熱、ハンマーでの叩きなど、職人の繊細な技術を駆使した伝統的な製法で手作業のみで仕上げられており、カスタムメイドになっています。
三宅製作所の創業は1937年。昭和30年〜40年代頃までは、スチル制作の同業者は日本全国に多くいたものの、現在は三宅製作所1社のみで、そのほとんどがビールの醸造所に納品されています。ポットスチル1基の製作期間は、およそ8か月を要し、そのうち4か月は醸造所の設備のスペックに合わせた原材料の調達期間として費やされるそうです。
◆東シナ海の夕日を望むテイスティングルーム
蒸留所の2階にある「THE MELLOW BAR」
カウンターの向こうに東シナ海の大パノラマが広がる素晴らしいロケーションのテイスティングルームでは、2つの再溜釜から得た原酒をブレンドしたニューポットと、2018年2月に焼酎の古樽に樽詰めしたニューボーン、ノンアルコールの麦汁のティスティングができます。ハンドルキーパーの方には持ち帰りが用意されており、自宅で気軽にテイスティングを楽しめます。
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さらに、中に入った瞬間に目を引くのが11メートルの1枚板のカウンターです。たまたま出かけた木材市場で蒸溜所の関係者の方が一目ぼれしたアメリカンチェリー材だそうで、独特の色合いが重厚で落ち着いた雰囲気を呈しています。
また、嘉之助蒸溜所のためだけにデザインされた、低重心のゆったりした「ピートラウンジチェア」は、ランドスケーツプロダクツがプロデュースしたものです。カウンター横にはレコードも置かれ、アナログサウンドが流れる空間で、ゆっくりとテイスティングができます。
東シナ海の大海原と、白砂の吹上浜を望む場所に誕生した海の蒸留所「嘉之助蒸溜所」
吹き抜ける潮風の香りを浴びながら、ジャパニーズウイスキーづくりの奥深さにふれてみませんか。
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嘉之助蒸溜所
設計:株式会社東条設計
総工費:10億円
敷地面積8,760u・延床面積1,714u
蒸留所の建物はコの字型鉄骨2階建て
主要製造設備・・・麦芽粉砕機・糖化槽・酵母タンク0.6kl×2基・発酵タンク6kl×5基(ステンレス製密封式タンク)
蒸溜器3器(初溜器6kl・再溜器3kl・再溜器1.6kl ランタンネック)
1日に麦芽1トンを糖化できる設備があります
アクセス・・・・・・・・・・・・・・
住所:鹿児島県日置市日吉町神之川845-3
電話:099-201-7700
営業時間:10時〜17時
※見学にはご予約が必要です
詳しくは嘉之助蒸溜所ホームページをごらんください。