鹿児島の歩き方
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読書・書評―会員お薦めの一冊―「賢い皮膚」傳田光洋 ちくま新書
長柄英男会員
病院の中で皮膚科は失礼ながら外科や内科に比べてマイナーなイメージで見
られています。今から三十数年前、医学部を卒業するとき皮膚科を選択した友
達に皮膚科を選んだ理由を尋ねたら、皮膚科は亡くなる患者さんが少ないから、
という答えに変に納得した記憶があります。
著者は最新の知見から皮膚は神秘に満ちた賢く、大きな臓器であることを主
張するのです。
最近は脳の研究がブームで脳の不思議な機能についての本が多数出版され、
脳科学者がテレビに出演しています。身体と外界との境界をなす皮膚も、水を
通さない角層を作ったり、湿度の高低によってバリア機能を調整したり、不思
議な機能に満ち溢れています。
思考するのは脳の役割であり、皮膚は身体と外界との境界を作り身体を守
るのが役割と考えられているのですが,実は脳と皮膚は極めて近い関係にある
のです。
高校の生物の教科書で、カエルの卵が受精して,細胞分裂を開始し、やがて
外胚葉,中胚葉,内胚葉に分かれて、さらにそこから様々な器官が作られてい
く、と教えています。胎生初期に身体の全体を覆っていた外胚葉の背中が体内
に陥入してチューブ状の構造ができ、脊椎動物ではそれが脊髄になり、一端が
大きく腫れて脳になります。つまり脳は外胚葉から発達した臓器なのです。
そこから、中枢神経系にある受容体が表皮にも存在するという類推が行われ
ていきます。PCR法、免疫組織化学という生命科学の先端技術を駆使した研究
が行われ、次から次へと中枢神経系で重要な役割を果たしているとされる受容
体が表皮ケラチノサイト(細胞)にも存在していることが明らかにされていっ
たのです。
皮膚の面積は標準的な日本人では1.6平方メートル,厚さは1.5〜4ミリメー
トルで重さは3キログラムです。その最外層はケラチノサイトと呼ばれる細胞
によって形成されています。ケラチノサイトは最深部でのみ細胞分裂が行われ
次第に表面に向かい最後は自動的に死んでしまいます。そして、この死んだ細
胞は水を通さない膜である角層を形成し、やがて垢となってはがれ落ちていく
のです。脳や肝臓よりも重い臓器である皮膚は「思考する最大の臓器」という
キャッチコピーを生み出したのです。
著者は化粧品会社である資生堂の研究所の主任研究員で、健康な皮膚につい
ての研究を生業としている科学者です。ほくろやいぼ、しわについても述べら
れていています。さらに、おやじ臭、加齢臭などの体臭と気になるにおいの話
もあり高尚な科学ばかりではなく平易な事柄についての解説も読んでいて興味
がもてました。
健康な皮膚が一定の速度で細胞分裂を繰り返し自律した状態を保っている
か、という疑問は分かったようで分からない今後の問題とされています。東洋
医学のマッサージ、鍼(ハリ)など皮膚に対する施術や湿布薬の効果のメカニ
ズムなど筆者の疑問も広がるようでした。
同氏の著書は他に、「皮膚は考える」(岩波科学ライブラリー112 岩波書店
2005年)、「第三の脳」---皮膚科からかんがえる命、こころ、世界 (朝日出版
社2007年)があり、本書の理解を助けると思います。
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