平成19年12月3日 玉川哲生会員〈セイカ食品(株)代表取締役会長〉卓話
教育にかけた先人の気魄に改めて感銘 ―県教育委員長の任期を終えて
平成11年から8年間、県教委委員、また17年より2年間は委員長を仰せつかり、この10月に漸く任期を終えることになった。
任期中は役目柄、県内各地の学校現場や教育関係施設を見学した。また、他県の委員や文科省の方々との会合で教育の今日的問題について論議する中、種々勉強できたことも有難く思う。
偶々、小生は昭和62年より2期、鹿児島市教育委員を経験したことで、市町村教育委員会と県教育委員会の双方の立場を理解できたことも幸いであったと思う。
教育委員制度は昭和23年、旧法教育委員法でスタートし、これに代わった昭和31年の「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」で再スタートしたものである。以後50年、教育基本法を含め教育全体のあり方に見直しの論が出て来たのは、或る意味で当然のことではないか、と思う。
安倍内閣の下で昨年末に教育基本法、また本年3月に学校法など3法が一部改正されたものの、参院議員選挙の前後より憲法や安全保障、教育問題など国の存立の根幹に係わる議論が薄くなり、日常生活に直結し易い年金、保険、政治資金、公務員倫理等々に議論の中心が変化しつつあることは真に残念である。
県内には約18,000人の教育関係者が居り、現場の各人が真剣に教育指導に当たっていると思う。その中に常識を外れた、飲酒、酒気帯び運転その他、県民の信頼を失いかねない事件が続いたことは痛恨至極であった。然しながら殆ど全てと言っても良い大多数の現場は行政、現場一体となって取り組んでいると思う。
当県特有の事情もある。たとえば、離島、僻地等では小規模校、少人数教室等の為、生徒間の相互練磨の観念が薄いとか、少人数集落では社会生活に限界があり、競争心が薄くなる(長所短所はあろうが)等々のことで小学校高学年以上の学力の水準の伸長が遅い。
また、昨今の女性(主婦)の社会進出、核家族化、家庭外での遊びの制限、減少により子供はテレビゲームなど家屋内で引きこもりがちとなる。
全体として、家庭の教育力の低下→基本的生活習慣、躾(しつけ)の欠如→子供の社会性の低下、という図式が見られる。
一般に、教育では家庭、学校、社会(地域)の三者それぞれの責任範囲があるものの、今日では家庭が担うべき分野が狭くなり、学校へ過度の期待が集まっている。本来、家庭、社会(地域)が担当すべき分野を再度確認し、PRしていく必要がある、と思う。学力向上の第一は基本的生活習慣と躾にあり、である。
当県の二つ目の特殊事情は、児童生徒数の減少率が全国第一のレベルにあることで、従って今後、学校の統廃合は避けられないものと思われる。特に高校については、ある程度の規模(当県では各学年4クラス)以上でなければ教育効率が挙げられないとしたし、その目標達成を実行する上で通学面の不便負担増が大きい場合、出来る限りの援助を行政として考慮すべきと思う。
市町村合併、高校の合併にはそれなりの財政的な合理化効果があると思うが、その為のシミュレーションの必要があるのではないかと思う。
県内の学校、殊に小学校には創立100年を越す学校を随所に見ることが出来る。明治5年の大政官布告学制序文「人々自ら其身を立て、其産を立て、・・・・・するは学にあらざれば能わず・・・・・邑に不学の戸なく家に不学の人ながらしめんことを期す・・・・・」に基づいた近代日本を目指した明治の人々の意気込みを思うと、身の引き締まる思いがする。
当県においても今日、過疎地となり人影まれな地域にも学校を置き、人々の開化を目指した先人の気魄に感銘せざるを得ない。
最後に、今後の教育関係の問題点を挙げておく。
● 家庭教育の重要性の啓蒙(幼稚園―保育所との連携)
● 公立と私学との関係(幼稚園、小学校、中学校、高校)
● 進学塾、学習塾との関係をどうみるか
● 教科書選定のあり方
セイカ食品(株)
代表取締役会長 玉川哲生
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