平成19年8月30日 大山 康成 会員<鹿児島青果 副社長>卓話
鹿児島の野菜と果物―その変遷と現状について
私たちは今、いつどこでも食事ができ、食べることにほとんど苦労しなくていい時代に生きています。国内ばかりでなく世界の各地から豊富な食材が届き、日本のどこでも美味しいものが食べられるようになってきました。ただ、なんとなく落ち着きません。自分の家庭の食卓や身近な食べ物を思い起こしてみてください。子供の時と変わっていませんか?
家族でコタツを囲んで手が黄色くなるまで食べていたミカン、おやつのカライモ(唐芋)。子供のころ、あたりまえのようにあった食べ物や教え(知恵)がいつの間にかなくなっているような気がします。家庭で作らなくなってきたのか? 食べなくなってきたのか?
鹿児島県も少子高齢化が進み人口減少の傾向にあります。かつて日本が貧しくて食料難のころは「口減らし」という言葉がありましたが、現代は「人の口(人口)」が減るなかで、食の文化というか、それぞれの家庭に受け継がれてきた固有の味、かごしま独特の食べ方など「鹿児島らしさ」「鹿児島の良さ」といったものが薄れつつあるように思います。
県民の台所である鹿児島市中央卸売市場の野菜や果実の入荷量の変遷を追うと、鹿児島県の人口の動態や社会環境などが如実に反映されるようです。
鹿児島県の人口は昭和の時代に180万人を超えていましたが、平成2年に180万人を割り込み、平成17年には175万人まで落ち込んでいます。戦後まもない昭和25年ごろ、果実全体の取扱高は数量で約2,800トン、金額にして約4億円で、うち県内産が約4割でした。東京オリンピックの昭和39年ごろは数量が約10倍に増え、その後も高度経済成長と人口増加で順調に拡大して、最大で約53,000トンの入荷量を記録したことがあります。
しかし、平成に入って減少傾向が顕著になり、現在では約33,000トンまで落ち込んでいます。県内産も3割を切りました。特に、ミカンの落ち込みが際立っています。県内産では今年、マンゴが伸びました。一方で、スイカ、ハウスミカン、メロンなどは減少傾向にあります。
野菜の方は、昭和25年ごろの取扱高は数量で約5,300トン、金額で約2億円。そのうち県内産が約7割でした。東京オリンピックのころには、数量が約10倍になりました。昭和55年になると野菜の入荷量が果実より多くなり、現在の数量は約140,000トン、金額でも200億円と順調に拡大してきました。ただ、7割を占めていた県内産が5割を切ってしまったのは寂しい気がします。
野菜のなかでは特にキャベツ、大根、ハクサイなど重量級野菜が、外食産業やお惣菜の加工業務用として伸びているようです。一方で、鹿児島独特の野菜・果物がなくなりつつあるのも事実です。例えば、各家庭で作っていたズイキ、ミガシキ、フダンソウ、ササゲ、伝統の行事に欠かせなかった十五夜芋(里芋)などです。また桜島大根は昭和39年ごろには、約1,850トンの入荷量でしたが、今は10分の1以下の約120トンまで落ち込み、利用法もかつては漬物が主流でしたが、今は贈答品になりつつあります。
輸入果実は、昭和50年前後は、バナナを中心とした果実が野菜の10倍以上(約4,500トン)の入荷がありましたが、昭和60年前後をピーク(9,000トン)に、現在では約7,200トンと減少傾向になっています。しかし、果実全体に占める外国産のウエートは、国内産の落ち込みが大きいために2割を越えています。国別には、周年輸入していた品物が多く、フィリピン産バナナ、アメリカ産のオレンジやレモン、ニュージーランド(NZ)産のキウィフルーツなど主力はあまり変わっていません。
輸入野菜は、昭和50年前後の入荷量はおよそ330トンでしたが、平成17年にはおよそ16倍(5,400トン)と大きく伸びています。ただ、果実より少なく、入荷野菜全体からみるとおよそ4%にすぎません。平成の初期のころまでは、台湾産タマネギ、アメリカ産ブロッコリー、NZ産カボチャなど、国内産地の端境期に輸入されていました。
しかし、現在は年間通して輸入される品目が増えています。特に中国産の輸入増が著しく、ニンニク、生シイタケのほか多種多様な一次加工の農産品が輸入されており、アメリカ、NZを抜いてトップの輸入先となっています。
このように時代とともに食を取り巻く環境は変化しています。日本人の食生活を考えると、輸入品は避けて通れないと思います。その時、「何が安全で、何が安心か」を見極める力が必要となります。生き抜くための力(知恵)を身につけることが求められます。それでも、鹿児島には身近な所に元気な自然がいっぱいあります。鹿児島に生まれ育った人間として、鹿児島の食を伝えたい、伝える子供達を育てたい。一緒に考えてください。大切な鹿児島の大地の恵みを、守り育てるために。
取締役副社長 大山 康成
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