平成19年9月0日 竹下 威 会員<弁護士> 卓話
開かれた裁判制度へ−鹿児島の場合は?
役所の中で地味な存在であるとされている裁判所ですが、今、裁判員制度への関心が高まっています。各地の裁判所に行くと、この制度に対する広報活動に取り組んでいる様子が伺われます。
裁判員制度は、「開かれた司法」の実現を掲げる司法制度改革の一環として、平成16(2004)年5月28日に公布された「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」、通称「裁判員法」に基づくもので、公布の日から5年を超えない平成21(2009)年5月までの間に制度をスタートさせることになっています。施行まで2年を切りました。この制度は、どういうものなのか。専門家の立場からお話をしてみたいと思います。
この制度の狙いですが、法律の専門家でない一般の国民を司法に参加させることにより、司法に対する国民の理解と信頼の向上を図ろうというものです。従って、健全な国民の視点に立った良識と感覚が裁判に反映されることが期待されているわけです。
では、裁判員をどうやって選ぶのか。選挙人名簿を基にして作成された裁判員候補者名簿の中から、事件ごとに選びます。広く国民の参加を求める制度ですので、選ばれたら原則として辞退は出来ません。しかし、例えば70歳以上の方、重い病気や怪我をされている方、同居の親族の介護や養育を行う必要のある方、事業に著しい損害が生じる恐れがあると認められる方などについては、申し出をされ、裁判所が、その事情を認めれば辞退は可能です。
裁判員制度の対象となる事件は殺人、強盗致死傷、現住建造物放火など地方裁判所で行われる第一審の刑事裁判のうち、国民の関心の高い重大な罪の裁判です。
それでは、鹿児島の場合、どうでしょう。本県では、この裁判は鹿児島地方裁判所で行われますが、対象事件を年間30件と想定し、1件につき裁判員6人、補充裁判員2人として、年間の裁判員総数は約240人になります。単純に選挙人名簿人口比でいくと、本県の場合、毎年6000人に1人位の割合で裁判員に選ばれる計算になります。
次に、裁判員とは一体、どんな仕事をやるのか。まず、裁判員は専門の職業的裁判官と一緒に審理のため公判に出席します。そこで証拠として提出された物や書類を取り調べるほか、証人や被告人に対する質問を行うことが出来ます。そして、取り調べた証拠に基づいて、被告人が有罪であるか、無罪であるか、有罪ならば、どんな刑にすべきかを、裁判官と共に評議し、決定します。全員一致が得られない場合は、評決は多数決により行われることになります。この場合、裁判員の意見は裁判官と同等の重みで扱われます。
この評議は非公開で行われますし、誰がどのような意見を述べたかということも明らかにされません。もちろん、裁判員も秘密を守る義務(守秘義務)を負います。もし、後で裁判員の意見が公にされるのであれば、評議の席で自由な意見の交換が出来なくなる恐れがあるからです。
評決の内容が決まれば、裁判長が法廷で判決を宣告します。裁判員としての仕事は判決の宣告によって終了となります。
裁判の審理に要する日数は、事件の内容により異なりますので、一概には言えませんが、できるだけ裁判員の負担を少なくするような運用がなされると思われますので、普通は3日間位で終わるものと見込まれます。
裁判員には、もちろん日当や交通費が支払われます。ただ、今のところ上限1万円程度で検討されています。
ところで、裁判員制度に類似したものとしては、陪審制度があります。わが国の陪審法は大正12(1923)年に公布され、5年後の昭和3(1928)年に施行され、先の太平洋戦争中の昭和18(1943)年に停止されるまで15年間にわたり実施されました。その間、484件の事件が陪審の評議に付されました。その大半は殺人事件と放火事件でしたが、注目すべきは、その中で無罪になったのが81件、実に17%近くに上っていることです。
スタートまでに2年を切った裁判員制度ですが、現在でも反対意見ないしは批判意見があります。また、裁判員制度には賛成だが、自分はやりたくない、という消極的な方も見受けられます。経験したことのない制度ですから不安があるのは無理からぬこととは思いますが、これまで種々検討を重ねた結果、誕生した制度です。まずは、制度を実行に移し、もし不都合な点が出てきたら、その時点で見直し等の検討をしては如何でしょうか。
国民の視点に立って、分かりやすく、充実した裁判を、迅速に行うことを目指して、ハードルを一つひとつクリアして行けばと思っています。
弁護士
竹下 威
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