平成19年7月30日 脇田 稔 会員卓話
地域に貢献する鹿児島大学
7月初旬「日経グローカル」誌に「全国大学調査・地域貢献度ランキング」が掲載された。これは地元就職の度合い、共同・受託研究など企業・行政等との連携、講演会・シンポジウム・公開講座・出前授業などの市民向けサービスの実施状況などを点数化して出したものである。
調査に応じた国公私立は448大学。そのなかで鹿児島大学は全国で38位、国立大学では23位、九州では大分大学に次いで2位と好位置にあり、地方の国立大学としては比較的に地域貢献の役割を果たしているといえると思う。
国立大学の法人化で予算や人件費の削減など大改革が続くなかで、国の財政制度等審議会や経済財政諮問会議は、大学運営の基盤的経費である運営費交付金を競争原理や成果主義に基づいて配分すべきと主張し大騒ぎになった。
財務省の試算によると、競争的資金である科学研究費補助金の配分実績で運営費交付金を再配分すると、東大、京大など13校は増えるが、残りの74校は減額となる。しかも50校は50%以上の減額で90%減額される大学もある。これでは教育単科大や地方大学の経営は破綻してしまう。ちなみに鹿児島大学は63.5%減らされ、19年度の交付金約165億円(大学予算の約40%を占める)が105億円減の60億円となり、大学としては運営できないことになる。
幸い国大協や文科省の巻き返し、地方マスコミや国会議員・知事・地方議会の厳しい反発もあり、「経済財政改革の基本方針2007」は「基盤的経費の確実な措置、基盤的経費と競争的資金の適切な組み合わせ、評価に基づくより効率的な資金配分を図る」ということで収まった。とはいえ、大学間・地域間格差拡大につながりかねない競争原理・成果主義に基づく改革の流れには、これからも十分注意が必要である。
全国知事会は、「直ちに効果が見えにくい基礎的・基盤的研究や外部資金の確保の機会が比較的少ない文科系・教育系大学等について配慮されなければならない。地方の国立大学にあっては、人材養成に加え、その地域の『知の拠点』として教育・文化・産業・医療の振興など様々な分野を通じて地域の自立と発展に大きな役割を果たしており、このことについても特段の配慮がなされるべきである」という決議をしているが、その通りであると思う。
哲学や倫理など基礎的な学問分野が疎かにされることがあってはならないし、世界的なレベルの教育研究を目指す大学ばかりが大学ではない。地方にあって地域の「知の拠点」として機能し、社会が求める人材の養成に力を入れる大学の役割も重要である。
ここ鹿児島で地域の医療や教育を担ってきたのは紛れもなく鹿児島大学であり、行政・銀行・マスコミなど企業・団体等にも多くの人材を供給してきた。今でも地域の高等教育機関として、入学生の半数を超える1,000人余の県内高校生を受け入れ、県内の就職先に500人ほどの卒業生を送り出している。
12,000人の学生、2,300人の教職員を有する大学がなくなるとすれば大変なことである。知の機能や教育の機会が奪われるだけでなく、700〜800億円とも言われる経済波及効果も失われる。市街地のど真ん中に占める35ヘクタールの広大な緑地空間と100年の歴史を持つ植物園、博物館、図書館などは、市民・県民にとっても貴重な学びの場・憩いの場であり、将来ともに残してほしいものである。
鹿児島大学は、より開かれた大学として積極的に地域貢献に努め、県民に愛され親しまれる大学として存続・発展することを願うとともに、県民の皆様の温かいご支援とご協力をお願いしたい。
国立大学法人鹿児島大学・監事
脇田 稔
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