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平成21年9月28日 鮫島 信一 会員(さめしま小児科 院長)卓話

『麻疹撲滅を願って8月4日を「はしかの日」と提案します』


 麻疹(はしか)は今日でも死亡例をみる重篤な感染症です。肺炎、中耳炎、脳炎等を合併し、治療が長引く事も度々です。一般的には10日前後で治癒しますが、治癒後数年して突然難治性の脳症を起こす事があります。現在の医学では根治療法はなく、対症療法に頼るしかありません。麻疹は一度罹れば二度は罹らないという経験則から、ワクチン接種に消極的な人もありましたが、現在では殆どの人が、「麻疹ワクチンは接種させたい」と考えるようになりました。
 麻疹生ワクチンは日本とアメリカで、殆ど同時に独立して開発されましたが、その後も改良が進み、日本のワクチンは接種後の抗体価の上昇率、副反応の低さでは、世界のトップレベルです。
 わが国では、麻疹患者数は2007年度高校生や大学生の集団感染があり、約3万人と推定されていますが、アメリカではわずか34名で、まさに桁違いに低い患者数です。麻疹ウイルスの伝播は人間から人間のみと認められており、DNAを調べると、そのウイルスの由来が分ります。アメリカの症例では殆ど日本由来と判定されているので、世界の国々から日本は麻疹の輸出国と批判されているのが実情です。
 アメリカをはじめ先進国の麻疹発生が少ないのは、ワクチン接種率が100%に近いからです。わが国では麻疹ワクチンは1978年より定期接種となりましたが、接種率は低く70〜80%台が続きました。原因としては色々考えられますが、「予防接種で防御できる疾患はすべて予防接種を行う」との概念が未だ十分に確立されていない事や、予防接種の接種管理が地方自治体に任されているので、一部負担金をもらっていたり、通年制でなく特定の時期を決めて行ったり、今なお集団接種を行う市町村があったためと推測されます。通年制、個別接種(いつでも、どこでも接種できる)で、負担金は無料が当然と思います。
 麻疹ワクチンは2006年度から麻疹・風疹混合(MR)ワクチンを1歳児(T期)と5〜6歳児(U期、小学校就学前1年間)の2回接種となりました。更に2008年度から5年間の時限処置として、13歳(V期、中学1年生)と18歳(W期、高校3年生)に追加接種することになりました。
 2007年度のMRワクチンU期の接種率は全国で87.9%、鹿児島県は83.3%で全国44位の低い接種率です。未接種がゼロにならない限り麻疹発症の危険性は続くわけですから、接種率100%に向けて努力する必要があります。
 わが国では、少子化・核家族化が進んで、子育ての環境も変化してきました。共働き世帯の子どもは託児所や保育園に預けられるので、診療時間中に予防接種を受けられない子どもが増えているとの理由から、2003年度より3月の第1週を予防接種週間として、時間外でも予防接種を受けられる態勢づくりをはじめました。しかし、北海道や北部日本では、この時期には未だ雪が残っており、交通が不便との事ですし、インフルエンザの流行も終息していない地域があります。また会社や自治体では年度末で多忙な時期でもあり、進学受験期とも重なりあまり効果をあげていません。
 そこで私は2007年度より、8月4日を「はしかの日」と定め、この日を含む一週間を予防接種週間とする事を提案いたしました。
 予防接種には定期接種(麻疹、風疹、麻疹風疹混合、三種混合.二種混合.BCG.ポリオ、日本脳炎)と任意接種(水痘、おたふくかぜ、インフルエンザ、肝炎A,B,ヒブ等)と沢山ありますが、緊急の課題は麻疹撲滅ですので、「はしかの日」を提案しました。このように分かりやすいネーミングにすると国民も親しみやすく関心も高まります。また、夏休みを利用することも効果がでやすいはずです。
 医療界ではすでに、10月10日(目の日)、9月9日(救急の日)、6月4日(虫歯の日)、3月3日(耳の日)等としてすでに国民の間に定着し、啓蒙活動は相応の成果を挙げている実例があります。
 ちなみに、9月9日を「救急の日」とし、この日を含む一週間を救急医療週間と定めたのは鹿児島救急医学会の提唱でした。今では日本全国に通用しています。
 我が国の1日も早い「麻疹撲滅宣言」を期待し、「はしかの日」制定を提案する次第です。


 追記:「はしかの日」の提案については、鹿児島県医師会報(平成20年9月号)や鹿児島県小児科医会会報に投稿し、平成20年度九州医師会学校保健委員会連絡協議会(熊本市)、第18回日本外来小児科学会(名古屋市)で、その趣旨について発言し、出席者殆ど全員の賛同を得ました。
 さらに、鹿児島県医師会では鹿児島県行政と協力し、平成21年度より8月4日を「はしかの日」と定め、8月1日から8月8日までを予防接種週間として実施し、スタートしました。この運動が全国に広がり、定着する事を期待しています。
 

さめしま小児科 院長
鮫島 信一

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